Jun 16, 2010

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【美の扉】

 ダビンチ(イタリアの芸術家、1452?1519年)の「モナ・リザ」の微笑は喜びなのか、悲しみを内面に秘めたものなのか、ゴヤ(スペインの画家、1746?1828年)の「裸のマハ」のモデルは誰なのか…。名画とされる作品には、何がしかの謎がある。それゆえ見る者を強くひきつけるのだろう。

 江戸東京博物館(東京都墨田区横網)で開催中の「世界遺産 ヴェネツィア展」で展示されている「二人の貴婦人」も謎に満ちている。描かれているのは、テラスに腰をかけている2人の女性。ブロンドの髪に小さな帽子をかぶり、高級な衣服をまとった姿はいかにも上品そうだ。謎は、この2人の視線。なぜか絵の外に向けられているのだ。

 ルネサンス時代に活躍したベネチアの画家、ヴィットーレ・カルパッチョの作品。ジャンドメニコ・ロマネッリ前ベネチア市立美術館群総館長は「ルネサンス期のベネチア絵画の中で最も名高く、広く愛される絵」だという。

 興味深い挿話がある。実は、この絵は過去に上部が切断されている。分かったのは1963年。ベネチア絵画の研究者が確認したという。男たちが舟をこぎ出し鳥を捕る場面を描いた「潟(ラグーナ)での狩猟」で、ポール・ゲッティ美術館(米ロサンゼルス)が所蔵していた。1944年、ローマの古美術店に、ほこりだらけで飾られていたのを若い建築家が購入。その後、コレクターらを経て、アメリカに渡ったという。

 「潟(ラグーナ)での狩猟」を上に置くと、絵柄がぴったりとつながる。「二人の貴婦人」では、途中で切れたようになっていたユリが1本の花になることや、サイズも木の材質も同じだった。いつ、誰に切断されたかは分からない。

 「切断」の事実が判明するまでは、2人の女性は貴婦人ではなく高級売春婦とされていた。衣装といい、顔立ちといい、気品にあふれ、とてもそうはみえない。しかし、婦人の前方にあるかかとの高いサンダルは、そういった女性がよく履いていたことや、胸の開いたドレスから、そうみなされていたわけだ。

 ただ、同一作品と分かってから、身分は一転。「潟(ラグーナ)での狩猟」に描かれたユリが純潔を意味することから、夫の帰りを待つ貞節で身分の高い女性となった。一枚の絵の発見で見方は百八十度変わってしまう。絵の解釈は、何ともおもしろい。

 謎の話は、まだある。見れば見るほど画面左端の描写が不自然なのだ。画面上部の左端の少年の胴体の一部が切られ、下部の犬は頭と前足しか描かれていない。しかも、2人の婦人の目線は画面の外に向けられている。左側にも絵が存在することが推測できる。

 本展に学術協力した九州大大学院の京谷啓徳(よしのり)准教授は「もし左側に結びつく絵があったら、歴史的な大発見になる」と話す。視線の先には、いったい何があるのだろうか。(渋沢和彦)

 ■ベネチア支配力の象徴

 「水の都」「アドリア海の女王」などと呼ばれ、訪れる人々を引きつけてやまないイタリア北東部の都市、ベネチア。サン・マルコ広場の鐘楼の壁など街を歩くと、いたるところで翼を持つライオンを目にする。彫刻、レリーフ、絵画など…。それはベネチアの守護聖人である聖マルコの象徴だ。828年、ベネチアの商人がエジプトのアレクサンドリアから聖マルコの聖遺物を運んできたことにより守護聖人となった。

 ライオンを描いた中で、最も有名なのがカルパッチョの「サン・マルコのライオン」(1516年)といわれている。前足が陸、後ろ足が海に置かれ、当時のベネチアの支配が陸にも海にも及んでいたことを暗示している。

 干潟の上に築かれた都市は、13世紀から15世紀まで貿易で栄え、屈指の海軍力をもった都市国家だった。そのためベネチアの支配を受けた周辺地域にも有翼のライオンを見かけることができる。

【プロフィル】ヴィットーレ・カルパッチョ

 1460年か65年ごろ?1525年か26年。伊ベネチア生まれ。風景画を得意にしたベネチア派の画家。9枚の絵画の連作「聖ウルスラ物語」で知られる。油絵の具で描かれた作品は鮮やかな赤い色彩が特徴。牛の生肉を使ったイタリア料理のカルパッチョは、彼の絵の色彩に由来しているという説もある。

【ガイド】 カルパッチョやティントレット(1518?94年)など15?19世紀にベネチアで活躍した画家の絵画など約140点を展示した「世界遺産 ヴェネツィア展」は、東京都墨田区横網の江戸東京博物館で開催中。12月11日まで。月曜休館。問い合わせは、同博物館(電)03・3626・9974。一般1400円。

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